ジャイロトロンの高度化研究

ジャイロトロンは、数十 GHz から数百 GHz(遠赤外/テラヘルツ)領域で動作する電磁波源です。この周波数帯において、
ジャイロトロンを超える高出力の装置は他に無く、様々な研究分野での応用が期待されています。

ジャイロトロンの概要

 ジャイロトロンは大型の真空管で、左の模式図に示す様に、超伝導マグネットに挿入されます(左図はモード変換器内蔵型の例)。真空管下部の電子銃から放出された電子は、磁力線に沿って空胴共振器へ入り、その運動エネルギーが電磁波のエネルギーに変換されます。共振器を出た電磁波は、モード変換器により空間分布を整形され、真空窓からガウシアンビームとして放射されます。
 マグネットが作る磁場の中で、電子は高速でサイクロトロン運動(回転運動)をします。ジャイロトロン発振は、電子の回転運動のエネルギーを電磁波のエネルギーに変換するサイクロトロン共鳴メーザー作用を利用したものです。強磁場を用いると、電子を高速で回転運動させることができ、その回転周波数に対応して、発振周波数を高くすることができます。
 センターでは、幅広い研究分野に遠赤外ジャイロトロンを応用するため、これまでの実績を基盤として高度化の研究を進めています。

モード変換器内蔵ジャイロトロンFU CW G Series

 ガウスビームへの変換器を内蔵する連続動作ジャイロトロン(Gyrotron FU CW G Series)の開発を開始しました。これにより、ジャイロトロンを幅広く応用研究に用いることができるようになります。

Gyrotron FU CW GV
Gyrotron FU CW GI からの放射ビームによる温度上昇の赤外線画像

ガウスビーム出力の実証

FU CW GI

  • 組立管
  • 基本波発振203GHz(0.5kW)
  • ポジトロニウムの超微細構造測定に利用

FU CW GII

  • 組立管
  • 2次高調波発振395GHz
  • DNP / NMR計測に利用

FU CW GIII

  • 封切管
  • 2次高調波発振で4%の発振効率を達成
  • 10時間を超える連続発振を実現
  • パルスESR用の光源として利用予定

FU CW GIV

  • 封切管
  • 2次高調波発振
  • 395GHz周波数連続可変

FU CW GV

  • 封切管
  • 基本波 多周波数発振160〜270GHz(1kW)
  • 汎用

コンパクトジャイロトロンGyrotron FU CW C Series

 ジャイロトロン管、マグネットおよび電源のコンパクト化により、ジャイロトロンのコンパクト化に成功しました。床面積:3 m2,高さ:1.5 mに設置可能です。

運転パラメータの例
● カソード電圧 20kV ● ビーム電流 300mA

FU CW CI

  • 組立管
  • 基本波 107〜205GHz(150〜320W)
  • 2次高調波290〜396GHz(10〜30W)
  • 記事共鳴測定、DNP / NMR

FU CW CII

  • 封切管
  • 基本波発振203GHz(0.8kW)
  • モード変換器内蔵

高出力パルスジャイロトロンの開発

12Tの超伝導マグネットに搭載された高出力パルスジャイロトロン。
大型ヘリカル装置LHD(核融合科学研究所)への適用を目標に開発中

 ジャイロトロンを用いて、1億度にもなる核融合プラズマのイオン温度を計測することができます。しかし、100 kW を超える高出力が必要です。

高出力パルスジャイロトロンの開発目標
→ 300~400 GHz の周波数が最適
→ 300kW の高出力が必要

基本波発振で、実用化に必要な出力目標を達成しました。
ジャイロトロン出力の長距離伝送実験の様子

発振出力の安定化

コンピュータ制御によるジャイロトロン運転装置

 ジャイロトロンの応用では、発振出力の長時間安定性が必要です。センターでは、PID 制御法によるフィードバック操作によって、出力の変動幅 0.6%以下の高安定化を実現しました。また、コンピュータ制御でジャイロトロンを運転する装置を開発しています。

周波数連続可変性の付与

Gyrotron FU CW XA の発振周波数の変化

 周波数の連続可変性も応用上重要です。後進波発振機構により、磁場強度の調整等で周波数を連続的に変えることができます。センターでは、異なる複数の周波数帯で発振周波数を連続的に調節する事のできる、多機能ジャイロトロンの開発に成功しました。

高性能電子銃の開発

 ジャイロトロンの高度化には、電磁波を発生する基になる電子を放出する電子銃の高性能化が重要です。当センターでは、独自の設計手法により高性能電子銃を開発しました。