高出力遠赤外領域の材料・物性研究

 センターではジャイロトロンの開発と同時に、ジャイロトロンの特性を生かした応用研究に取り組んでいます。世界で初めてジャイロトロンを用いた電子スピン共鳴に成功し、物性研究を行うと共に、これらの新技術開発はジャイロトロンの高度化にフィードバックされ、さらに前述の色々な分野での応用研究につながっています。また、世界最高周波数(300 GHz)の電磁波による材料プロセッシング装置を独自に開発し、高周波電磁波による材料開発研究を進めるなど、高出力遠赤外領域の新技術・新学術領域の開拓に取り組んでいます。

ジャイロトロンを用いた材料プロセッシングの研究

 2.45 GHz の電磁波による加熱は電子レンジとして一般にも普及している技術です。センターではジャイロトロンの高周波・高出力の電磁波を用いることにより電子レンジの 100 倍に及ぶ高周波数の電磁波による加熱実験を行うことができます。電磁波による加熱は、従来の加熱と異なり、物質を構成する分子に、直接エネルギーを注入します。そのため、用いる電磁波の周波数や出力を上手く選ぶと、材料の機能が向上したり、新しい機能を付加することができます。

ジャイロトロンを用いた材料プロセッシング装置①

世界初の 300GHz / 2.3kW 高出力電磁波照射装置

ジャイロトロンを用いた材料プロセッシング装置②

28GHz / 15kW 高出力電磁波照射装置

電磁波材料プロセッシングの特徴

焼結対象のセラミックス自身が発熱する
  • 高いエネルギーの利用効率(体積加熱方式)
  • 急速加熱(熱伝導を利用しない体積加熱)
  • 粉体の粒成長を抑えた加熱
  • 熱ひずみの少ない、試料の一様加熱(損傷が起こらない)
  • 精密な温度調整
  • 超高温加熱が容易に実現
28GHz、300GHz の電磁波焼結実験を行い明らかになった高純度アルミナセラミックスの見かけの活性化エネルギーの周波数依存性
電磁波吸収特性の異なる材料を用いることにより熱平衡にとらわれない反応プロセスが実現できる(選択加熱の効果)
特殊効果(非熱的効果や電磁波効果と呼ばれる)を利用した革新的材料開発が行える
  • 低温での緻密化の促進
  • 酸化の抑制
  • 難焼結材料の緻密化の促進

強磁場磁気共鳴測定装置の開発と応用

物質の性質(特に磁気的性質)を、強磁場・超低温の極限環境において調べることで、物質を支配する物理的法則がわかります。その際、高周波電磁波を用いた磁気共鳴法を用いることで、物質内部のミクロな観点からの情報をこれまで調べられなかった領域まで観測することができ、新しい発見が期待されます。

mm-wave vector network
analyzer( MVNA)

フーリエ変換NMR
スペクトロメータ

磁場域 定常磁場 18 テスラ
    パルス磁場 40 テスラ
温度域 1.5 ~ 300 K(液体ヘリウム)
    0.1 K まで到達可能(希釈冷凍器)
周波数帯域
 電子スピン共鳴(ESR):最高 800 GHz(MVNA)
 核磁気共鳴(NMR):5 ~ 400 MHz(300 W パルス RF)

ESR/NMR二重共鳴法による測定例

ESR によるシリコン中のリン原子の動的核偏極(DNP)効果の観測と NMR 遷移の誘起による核偏極のコントロール(Y. Fujii et al ., J. Phys.: Conf. Ser. 568 (’14) 042005)

高周波電子スピンエコー測定装置の開発

 電子は電気と磁気の性質を持っています。その磁気的性質はもっぱら磁石として利用されてきました。量子力学の発展にともない、新しく電子の持つミクロな磁気的性質(スピン)の量子論的性質を利用する、スピンエレクトロニクスや量子コンピューターの実現が注目されています。ジャイロトロンの高周波・高出力の電磁波を数ナノ秒( 10 億分の 1 秒)程度照射し測定することで、これらの実現に必要な電子スピンの動的な特性を知ると共に電子スピンを電磁波により制御することができるようになります。

開発中の高周波電子スピンエコー測定装置
光駆動半導体スイッチングデバイスによりコヒーレンシーを保ったま
ま10ns、20ns に超短パルス化された 154GHz ジャイロトロン出力